建設業界を支える、安全大会。講師に必要なスキルは「眠らせない・主体性を促す」コミュニケーション能力

こんにちは、前川由希子です。私は約6年前より建設業界の安全大会の講師をつとめています。

安全大会は恒例行事のため「内容がパターン化し、参加者の反応が薄い」「もっと活気がある場にしたい」というお悩みを持つ主催者の方も多いようです。

私は年間15回〜20回ほど登壇していますが、参加者の方からは「予想外に楽しかった」「過去20年間で最高だった」という嬉しい声をいただいています。そこで、今回は楽しく、「参加してよかった」「開催してよかった」と言われる安全大会づくりのポイントをお伝えします。


■開始3分で会場を一つに。第一印象とアイスブレイクで参加者の心をつかむ

参加者の方にとって「年に1度の義務」という認識になりがちな安全大会。最初からやる気満々とはいかないのが正直なところです。この会場の空気を変えることが、序盤の大切なポイントです。

まず、基本的なことですが講師の第一印象は大切ですね。元気に笑顔で話しはじめると、会場の雰囲気も明るくなります。時には方言やクスッと笑ってしまう自虐ネタも交えると、会場がなごみ、場が和らぎます。

大事なキーワードの前などは、適度な間合いを大切に。聞いている方に一瞬「何だろう?」と考えさせる効果があります。このような話し方のテクニックは、吉本新喜劇や落語がよいお手本です。

また、建設現場で働く方は普段の仕事中は体を動かしているので、じっと座って話を聞くのは慣れていない、どちらかというと苦手な方が多い傾向にあります。

そこで、最初のアイスブレイクが大切になります。ここで体を動かし、声を出す時間をつくると脳に刺激を与えられます。質問をして、参加者全員の手をあげさせるといったアクティビティを入れることで、会場の温度があがり、一体感が生まれます。

アイスブレイクが終わった時点で「このあとは何をするのかな」と、参加者が楽しみにしている状態を作る。この最初の3分間が、勝負どころといってもよいかもしれません。


■簡単にできて、全員が参加したくなる。コミュニケーションの基礎を体感するワーク

私の講演では、安全対策に欠かせないコミュニケーションのポイントを体感していただくため、グループワークを多く取り入れています。参加型にすることで、眠くなる隙を与えません。

しかし、突然「隣の人と話し合いましょう」と言われたら緊張し、苦手だなと感じる方もいます。参加者全員に「積極的に参加したい」と思ってもらうため、グループワークの内容は、誰にとってもわかりやすく簡単であることがポイントです。

例を1つご紹介します。参加者にペアになって向かい合ってもらい、お互いを笑顔で見つめながら1から3までの数字を順番に、交互に言いあうワークです。「1」「2」「3」、「1」「2」「3」とつづけるのですが、実際にやってみると、「3」の次にうっかり「4」と言ってしまうミスがおきます。集中していないと無意識に「3」の次は「4」だと思ってしまうのです。

このワークの目的は、「お互いに相手の目を見ているか」「自分が間違えないように心がけると同時に、相手が言ったことをしっかりと聴けるか」という、コミュニケーションの基礎に意識を向けてもらうことです。

一見、安全との関連がないように思えるかもしれませんが、情報を正確に伝える、聴くというのは安全対策の土台といえる重要なことです。

たとえば「この場所に大きな穴を掘りました」という情報。聞きもらしていれば穴に落ちてしまうかもしれません。ここまで大きな話ではなくとも、普段の会話の中で、相手が話しているのにほかのことに気を取られていて、相手は伝えたつもりでも自分には伝わっていなかった、ということはないでしょうか。ささいなことが事故につながることもあるのです。


■無理せず「自然に楽しめた」ことは頭や心に残り、すぐに現場で生かせる

難しいテーマについて学ぶ・考えるのは、参加者の方が負担を感じることもあります。頑張りすぎたり無理したりということがなく、自然な状態で「やってみたい」そして「できた」と思えることが、「夢中になれる」「楽しい」という結果につながります。

参加者が少し頑張らなければならない場面では、講師のフォローが効果的です。たとえば、先ほどの数字を順番に言うワーク。突然、人と見つめあうようにと言われたら、なんだか気恥ずかしくなりますよね。そんなときは、「ペアの方より優しいまなざしで!」「自分の方が優しい目をしていると思う方は手を挙げて」といった、講師の声がけが参加者の背中を押してくれます。少し強引だけれども、思わず笑える。このような工夫も楽しさを生む要素のひとつです。

そして、楽しんで終わりではなく、現場に戻ったら学んだことを生かせる、ということが大切です。

さまざまな会社から異なる技術をもった人が集まり、分業している建設現場では、チームワークが欠かせません。現場の状況は、毎日どんどん変化していきます。「今、何がどういう状態にあるか」「今日は何に気をつけるべきか」など、コミュニケーションを密にとることが、正確な作業や事故のない安全な現場づくりにつながります。

講演に参加したら急にコミュニケーションの達人になれる、というわけではありませんが、楽しい体験を通して得たことは、自然に頭や心に残るものです。参加者の方が現場に戻った際、体感したことをふと思い出し「忙しくても目を見て話そう」「連絡事項は集中して聞こう」と心がけてもらうことを、私の講演では目指しています。

楽しい安全大会をつくるには、参加者を巻きこむことができる、講師のコミュニケーション能力が鍵になります。積極的に参加してもらえるよう工夫をちりばめ、眠くなる隙を与えない安全大会にしていきましょう。

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